磔刑の聖女 - Sound Horizon
憤怒
「参詣の途絶えたKirche。旅歩きのGeige Spieler。
御像となった磔の聖女。
君は何故、この境界を越えてしまったのか。
さぁ、唄(うた)ってごらん」
「さぁ、お父上がお待ちです」
鈍色の足取り 決意で進める
背中に風を感じて 一度だけ振り返る
宵闇の匂いは 不思議と懐かしく
背中を押してくれる そう そんな気さえしたわ
押し寄せる 悲しみに 独り震えて 指でなぞる 遥か遠い約束
沸き上がる 憎しみの 脆く歪な 刻の果てに 闇を見つめ接吻
今 でも 忘れ られない
「殿下、お嬢様をお連れいたしました」
求婚してきたのはラインプファルツだ。
行き遅れには願ってもない相手だろう?」
「お言葉ですがお兄様」
「お父様と呼べと何度言ったら分かるんだ」
「いいえお兄様、私はどなたのもとにも嫁ぐ気はございません!」
愛を偽って生きるくらいなら
真実と共に死すことも厭わないわ
二人で見つけた野ばらが
君を包むことを願って墓標の周りに植えたけど
結局 遂の終まで咲く事はなかったね……
月光に恋をした鳥籠の白い鳥は、
地に堕ちると知りながら、最期まで羽ばたくよ。
だからこそ宵闇に唄うのは、憾みの唄じゃないわ……。
「ワルター、お前の母上が身分を偽ってま
で守ろうとしたものの結果がこれだ。フハハハ!」
「殿下…」
「この馬鹿娘を磔にしろ」
「殿下!」
「成る程 それで君は磔にされた訳だね。
一途な想いを貫くのも結構だ。
果たして彼は、君の死と引き換えてまで、本当にそれを望むのかな?
まあいい。さぁ、復讐劇を始めようか」
「いえ。私は、そんなことを望んでなどいないわ。
人にはそれぞれ、背負うべき立場と、運命がある。
貴方が会いに来てくれた。私にはそれだけで十分。
「…私、今とてもドキドキしているわ。
「うん。」
「綺麗なお花。」
「わぁ、本当」
「つけてあげるよ。」
「本当?可愛くしてね。」
「似合うよ。」
「本当?」
「メル 絶対、絶対迎えにきてね!」
「ああ、約束さ」
「メル、そんなになってまで、約束を守ってくれたのね」
焔(ひかり)を無くした君を縛る 冷たい鎖は
「おお、聖女様!うっ…」
「おおなんてことを…」
「おお、まことであったか。これならば、聖女さまの罪を…」
愛(ひかり)を亡くした 君を想う二人の愛憎
鳥は空へ 屍体は土へ 摂理(かみ)を裏切り続けた
夜は明けて 終わりの朝へ 次の別離(わかれ)こそ永遠――
でも…
後悔などしていないわ 嗚呼 これが 私の人生
《門閥貴族の令嬢》[von Wettin(フォン ヴェッティン)] でも
《七選帝侯の息女》[von Sachsen(フォン ザクセン)]
でもないわ 私は《一人の女》[Elisabeth(エリーゼベト)]
唯 君だけを愛した――
唯の【Elisabeth】
「ナニヨメル、サッキカラオカシイワヨ、ドウシチャッタノ?
アンナ女ノ言ウコト、真ニ受ケチャダメヨ!
モウ忘レマショ!
復讐ヲ続ケナキャイケナイワ。
例エ何ガアッタトシテモ。ソレガ私達ノ存在理由デショ!?
ネェ、本当ニ分カッテルノ!?メル。
アアァ!モウ!ドウシテ分カッテクレナイノ!?メルノ分カラズ屋!
今ハモウ、私ダケガ貴方ノエリーゼナノヨ!?
コレマデ楽シクヤッテキタジャナイ!
二人デ色ンナ復讐、手伝ッテキタジャナイ!!
コレカラモキット楽シイワ。ソウヨ、ソウニ決マッテイルワ。
貴方ニハ私ガ、私ニハ貴方ガイルモノ!コノママ続ケヨウヨ!
ズット二人デ続ケヨウヨ!ネェ!!
ズット、ズットズットズット続ケヨウヨ!!
コノ世界ガ終ワルマデ、ウウン!コノ世界ガ終ワッテモ、
ズットズット一緒ニイヨウヨ!ネェ、イヤ、イヤヨメル、
イヤ、イヤイヤイヤアァ!!オ願イ、オ願イヨゥ、
メル…イヤアアアアァ!!!…」
「もう、いいんだよ。エリーゼ。」